大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡地方裁判所大牟田支部 昭和60年(ワ)35号 判決 1987年3月10日

原告

内野益行

被告

塚野仙哉

主文

1  原告の請求を棄却すること。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一  申立

原告は「被告は原告に対し七四一万二〇〇〇円およびこれに対する昭和五八年三月二六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求め、

被告は主文同旨の判決を求めた。

二  原告の主張

原告は次の交通事故により負傷した。

(一)  日時 昭和五八年三月二六日午後一〇時三〇分ころ

(二)  場所 大牟田市大字倉永一六六二番地の一先路上(国道二〇八号線上)

(三)  加害車 被告運転の普通乗用自動車

(四)  被害者 原告

(五)  態様 車両用信号が赤となつたのを下り信号により確認した原告が右道路を西側(西鉄渡瀬駅側)から東側(吉野方面)に向かつて横断していたところ、久留米方面から大牟田方面に向かつて南進してきた加害車が原告の左下腿に激突したため、入通院加療期間五一六日(内入院二八一日)を要する左下腿開放骨折・左腓骨神経麻痺の傷害を受けた(後遺障害等級一一級)

被告は加害車を所有し自己のために運行の用に供していたものであるから自賠法三条により原告の損害を賠償すべき義務がある。

原告は次の損害を蒙つた。

(一)  逸失利益 四九一万円

原告は年収二五〇万円で労働能力喪失率二〇%であり、治癒時五四歳で就労可能年数一三年として算定すると四九一万円となる。

(二)  慰謝料 四七九万二〇〇〇円

入通院分二四〇万円、後遺障害分二三九万二〇〇〇円とするのが相当である。

右のとおり原告の蒙つた損害は合計九七〇万二〇〇〇円となるところ、原告は自賠責保険より二九九万円を受領しているのでその残額は六七一万二〇〇〇円となる。

原告は本訴における弁護士費用として七〇万円を請求する。

よつて原告は被告に対し右の合計七四一万二〇〇〇円およびこれに対する本件事故の日の昭和五八年三月二六日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

三  被告の主張

原告主張の事実中、その主張の日時、場所において、その主張の道路を西側から東側に向かつて横断していた原告に対し、久留米方面から大牟田方面に向かつて南進していた被告運転の普通乗用自動車が衝突したこと、被告が同自動車の運行供用者であること、原告が自賠責保険から後遺障害補償として二九九万円を受領したことは認め、その余の点は争う。

本件事故は原告が深夜赤信号を無視して被告の進行する道路に飛び出したことによつて発生したものであつて、不可抗力であり被告に過失はなく、原告の一方的過失に基因するものであり、被告車に構造上の欠陥または機能の障害はなかつた。

仮りに被告に何らかの過失があるとしても、原告には横断歩道が近くにあるにもかかわらずそこを通らず、しかも深夜赤信号を無視して飛び出した過失があり、その過失割合は九割とするのが相当である。

被告は自賠責後遺障害補償金二九九万円のほか、(一)治療費七九万〇五五四円(二二万二九八九円は医療法人弘恵会ヨコクラ病院に、一一万四七〇〇円は原告に、四五万二八六五円は国民健康保険求償金として大牟田市にそれぞれ支払)、(二)休業損害九〇万円、(三)自賠責保険仮払金四〇万円の支払を受けており、損害填補額の合計は五〇八万〇五五四円となる。

四  証拠

記録中の書証目録、証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

昭和五八年三月二六日午後一〇時三〇分ころ、大牟田市大字倉永一六六二番地の一先路上(国道二〇八号線上)において、同道路を西側(西鉄渡瀬駅側)から東側(吉野方面)に向かつて横断していた原告と久留米方面から大牟田方面に向かつて南進していた被告運転の普通乗用自動車が衝突したこと、被告が同自動車の運行供用者であることは当事者間に争いがない。

被告は本件事故は原告の一方的過失に基因するものであつて、被告は免責される旨主張する。

前記争いのない事実と成立に争いのない甲第四号証、乙第一一ないし第一四号証、第一六・第一七号証(乙第一七号証は原本の存在も争いがない)、検証の結果、原告および被告の各供述、弁論の全趣旨を総合すると、被告は昭和五八年三月二六日午後一〇時三〇分ころ普通乗用自動車を運転して大牟田市大字倉永一六六二番地の一先路上(国道二〇八号線上)に久留米方面から大牟田方面に向かつて南進して差しかかつたこと、同所は信号機により交通整理の行なわれている交差点であり、被告の進行方向の信号は青色を表示していたこと、被告は同交差点を直進して行く予定であつたので信号に従い時速四五キロメートルの速度で同交差点内に進入しようとしたところ前方約一〇・二メートルの地点に横断歩道でないところを右から左に向かつて小走りで横断してきた原告を発見したこと、被告は驚いて急制動の措置をとり衝突を避けようとしたが及ばず原告に衝突し、原告を転倒させ原告に対し左下腿開放骨折、左腓骨神経麻痺の傷害を負わせたこと、原告は右横断を始めるに際して信号を確認せず、原告が横断し終るまでにこの地点に到達する車両はないものと考えて横断を開始したものであること、被告運転の普通乗用自動車には構造上の欠陥または機能の障害はなかつたことが認められる。

前掲各証拠中右認定に反する部分は措信し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定の事案によれば、本件事故は交通整理のために信号機が設けられているのに拘らず原告が全くその信号を見ないで、かつ左方の安全を十分確認することもなく道路を横断しようとした過失に起因するものというべく、被告に責められるべき点は認められない。

右のとおり本件事故について被告は被告車の運行について注意を怠らなかつたものであり、被害者たる原告に過失があり、被告車に構造上の欠陥または機能の障害はなかつたものと認められる。

従つて被告は本件事故によつて原告が蒙つた損害を賠償すべき義務を負わないものである。

よつて原告の本訴請求は失当として棄却を免れず、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 糟谷邦彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例